マンガ好き・11 ~10年ぶりの恋人『企業戦士YAMAZAKI』・2:歩く名言集~
昼からS君と、ちょっとどたばたやっていた。お天道様も味方についてくれたみたいで、我々が活動している間は、いい天気だった。そしてお決まりのアトミックに昼食を食べに入ってしばらくすると、ザーっ。通り雨である。どうりで引き上げてくるとき、西の空が暗いと思った。
だんだん夏型の気候に変わっているので、そろそろ夏型に対応しておいた方がいい。これは生理学的にだけではなく、天気も同じである。さあ、明日から着替えを増やしておこう。夏は汗をかくのが当たり前だからね。
ということで、今回はマンガ好きの11回目である。今回も私の人生の教科書、『企業戦士YAMAZAKI』からである。私がこの作品が大好きなのは、心が温まるだけではない。人生で誰もが持っている自分だけの悩みとかに対する態度を、とても明快に描いてくれているからである。
基本的にこのマンガの作者、富沢順さんと私の考え方は似ているのではないかと思う。個人個人の悩みは、他人に相談しても答は出ない(相談することが悪いことではないと思うけど。なぜならば他人に喋ることで、自分の中で問題点がまとまってくることがよくあるから)。それぞれが抱えた問題は、当人が片付けていくしかない。冷たいようだけど、それが明確に描かれている。
そしてそれを見守るYAMAZAKIにしても鹿島倫子にしても、自分が大きな悩みを抱えていながら、人を見る目が温かいということだ。自分の問題点を少しずつ明確にしていきながら、必死で前進しようとしている人を暖かく見守っている。きっとこれは作者の中に、そういった要素があるんだろうなと感じさせてくれる(最終12巻の巻末に記述がある)。
とにかく名作だと私は思う。私にとって今の自分がこのようであるに至ったのは、中島みゆきさんの『伝われ、愛』(新潮社)と、この『企業戦士YAMAZAKI』の影響が少なからずあったのは疑うべくもない。
ということで、第六巻の最終話、BUSINESS36、「ワタシの青い鳥」に登場する刺客、足立道郎がYAMAZAKIを形容して言う「歩く名言集」「魂の伝道師」「素顔のマスクマン」の中から「歩
く名言集」というのをいただき、YAMAZAKIの名言を集めてみよう。
第四巻・BUSINESS19の「感情の入らぬビジネスなどやっつけ仕事にすぎん!」てのは、案外見落としてしまいそうになるけど、至言ですな。淡々と感情を入れないで仕事をこなしていくのを「いい仕事師」という考え方もあるんだけれど、人が持っている能力を、持っている以上にして発揮させるのは、ほかならぬ「感情」だからね。
同じく第四巻のBUSINESS23の「人はいつだって 次回作こそが最高傑作のはず!」ってのもいい。というのは私も何冊か本を書いて世に価値を問うている人間だが、いつだって自分のベスト(最高パフォーマンスというわけではなく、伝えたいことを最高の形にして伝えようとする意味で)を書いたつもりなんだけど、出来上がったときには「これ以上のものは書けない」と思っているのに、翌日になればそれよりもいいものが出てきてしまうんですよね。
それこそが自分が伸びている証かもしれないけど、いつでも「次こそ、もっともっといいものを!」という気持ちで一杯だ。これっていつも最高のものを発揮しようとしている者には共通したことかも知れないよね。ペース配分なんか考えたこともない。いつも自分のベストを、と考えて動いている人間は、「次回作こそが最高傑作」って思いはわかるんじゃないかな。
同じくBUSINESS24でも飲み屋での会話「つまりアナタは他人をも肩書きでランク付けするというわけですか。その人が持っている優しさ 夢 理想 価値観 喜び 悲しみ そして苦悩や努力を見ようとせず 肩書だけで他人を判断する。そんな浅薄な人間が 自分の何に対して自尊心を抱くというのです」ってのもいいなあ。こんなヤツ、結構いるもんね。
私の業種で、「管理職になれない人は負け組」などといった発言を、上層部で平気で口にする人がいたそうだ(私の耳にはちゃんと入っている)。「勝ち組」「負け組」なんてのは、それぞれの人間の価値観ですべてが異なるというのに、テメエの価値観だけでこんなことを口走るヤツがいたとしたら、そしてそういうヤツが管理職をしていたとしたら、そんな組織はすでに死んでいる。価値のあることはもう何一つとしてなしえないんじゃないかな。
「現状維持など退屈なだけ! 生命は危険を冒すためにある!」 その通り。今では私は争わなくなったけれど、それは安っぽい争いをしなくなっただけ。今でもやるときにはやりまっせ。そういった気持ちがなくなったら、それこそ生きていても仕方がないと思っているもん。 
第五巻でも名言は止まらない。BUSINESS25では「道というものはね 倫子さん いつもふたつに分かれているものなのですよ。どちらの道を選ぶかは その人が 何を重んじ 何を捨てるかで決まる」 その通りなんですよ。私なんかそれで、人が選ばない道を選んだだけでね。それだって別にひねくれたからではない。私的にはきっちりとした理由がありましたからね。もちろん、それは(たぶん)多くの人から見れば、大きな犠牲を払っての決断だと思うかも知れないですよ。
ちなみに倫子さんはこれに対して「カンペキな道が一本だけあれば なんにも捨てずにすむじゃんよ」と応じますが、YAMAZAKIの答は「そんな道はありません なぜなら価値とは相対的なものだからです。つまり捨てるものが大きいほど得るものは大きくなる」と返ってくる。あっちにもこっちのもいい顔をしていたのでは、自分が本当に自分の価値を感じられるほどの仕事はできないんですよね。だから私の場合は、私であり続けようとしていますけど。
そして絶望的な状況で「もうおしまいだ」とわめく若者に、「おしまい などという言葉は それなりの事をやってから使っていただきたい」と叱る。こういった叱りをくださる方が、今でも日本の社会にはたくさんおられるのだろうか? 自分の「受け」を気にして、見て見ぬふりをする人が増えてしまったんじゃないかなあ。「人間なんか皆石ころですよ 違いがあるとすれば ジッと動かないか、転がり続けるかです!」 その通り! だから私も転がり続けようとしています。
BUSINESS26では「アナタと同じ 糸の切れたあやつり人形ですよ。しかし 魔法をかけてくれる人がいる限り 決して倒れはしない」 特にこのBUSINESS26 では、ハッピーエンドのように見せかけて、見事にほろ苦いエンディングになっている。だから心が温まるだけではないんだなあ。人間、誰しも、人生に一度や二度はしているかも知れない、あの甘く、切なく、ほろ苦い思いにつながっているようで、私はこのエンディングは大好きだよ。
BUSINESS27では「敗北はしても 決して敗退はしない! 敗退こそ人生最大の堕落なり!」 ただの言葉遊びじゃないんだよね。敗北は勝負すれば必ずどちらかに現れる結果でしかない。あきらめてそれを続行する意欲を失ってしまうことが敗退だ。これは勝負をする人間すべてに必要な気概じゃあないかな。
BUSINESS29では私の好みそうな言葉がありますな。「性急でなくて誰が感動する。人は感動によって動くのです。ならば人を動かそうと思えば、自分自身が感動的な存在になる以外ない。その時 初めて 徳 と徳は一致する」 う~ん、耳が痛い……
BUSINESS30で敵の攻撃で手袋が破れて、自分の身体が機械でできていることを露出してしまったYAMAZAKIは、潔癖症で手袋をしている青年に言う。「いかがです 河合さん これでもアナタはワタクシと似ているでしょうか」 すると青年は大切なことに気づく。「そうか…! あなたの
手袋は人を拒絶するためではなく… 人として生き続けるために…」
第六巻には私が感じる名言がとても多い。BUSINESS31:「心を捨てても 魂までは捨てられまい」「心がどんなに傷つこうと 決して傷つくことのない ひとかけらの魂が アナタにもあるはず!」 そうですとも! 「命の名前を心という」と歌ったのは中島みゆきさんだが(「命の別名」。これも大変に感動的な歌)、私たちは決して譲れないナニモノかのために、いつだって自分であり続けるものなんですもんね!
BUSINESS32:「利己主義など無人島で一人暮らすようなもの。人と人の絆もなしに どうして幸福が実感できる」 はい、その通りです。でも人は人との絆を見失ってしまいがちなものなんですけどね。それでも表向き社会生活は送れますから。ただし、より大きな全体の利益を考えて動いている人間を、そんな視野をもてない人たちが「利己主義!」と呼ぶことはありますが。こういう人たちの口先に左右されないで生きるには、人は強くあらねばなりません。
BUSINESS33:「できないという結論など 人には存在しませんよ。 生きているうちは すべてが進行形なのですから」 もちろん、「できない」というのは途方もないことではなく、何らかの理由で自分で無理だと感じたことを、簡単にできないとしてしまわないことなんですな。
BUSINESS34:「心の隙間は自分できっちり埋めるしかありますまい」「乾いてゆく心を社会や他人のせいにしてはいけない。どんな時代に生まれようと アナタはアナタのはず。ならば自分の感受性くらい 自分で守り抜いてはいかがです!」 うん。私もそんなことで悩んだ時期があったよ。何年どころか二十年くらいかかったけど、すべては自分で何とかしていく以外ないということも知った。そうして私は私の生き方を得た。私は私。私以外のものではない。その人になんと思われようと、私が生きたいように生きるしかないってね。もちろんその人のために私が何かをしたいと思えば、それも遠慮なく行うようになったし。迷いがなくなったというべきかな。
OLの藤森の言葉もなかなかいい。「過去の重さはワタクシにはわかりません。ワタクシにわかるのは… 今の重さです!!」 YAMAZAKIもこれをフォローするような言葉を残しておりますな。「過去は老人のもの、しかし未来は若者のものですよ 倫子さん」 まだまだ… と思っている私は、まだ若者なんかなあ…?
35:「たとえ歴史が悲劇の連続だったとしても… 新しい歴史を突き動かすのは楽観しかない」。YAMAZAKIは自分はかつて過労死した会社で、かつて自分を育ててくれた人物・船戸に、その人から教わった言葉を返します。そして問題を解決して去っていくYAMAZAKIに船戸は「山崎さん 借りた傘は返せても… 雨に塗れずに済んだ恩は どうやって返せばいいのです」は問う。その答がなんともかっこいい。「笑顔ひとつで十分でしょう」 粋やなあ。
36:ここでYAMAZAKIは当時社会問題でもあった『青い鳥症候群』の解説をする。「恵まれた家庭で 勉強勉強と 遊ぶ事を知らないまま枠にはめられて育った若者に多いストレス症です。彼らは思春期に複雑な人間関係の中で傷つきながら 忍耐力や社会性を養っていく訓練に欠けるため 社会生活に対応できない。おまけに幼児性が抜けないため 我慢がきかず 何事も他人に責任転嫁し 自分の足元を見つめずに 実体のない理想を追い続けて 職を転々としてしまうのです」 今でもいますかね?こんな人。
「美学は決して譲れないからこそ美学なのです」 でも世の中には、自分が好ましいというだけの理由で、自分の希望を押し付けてくる人が結構多い。そういった人にはどう対抗するか。簡単である。こちらも美学で応じるだけだ。「決して譲れない」というのがホンモノなら、こちらの美学が通る。
そしてこれは最後の、「結局人の生きる道は2つしかないのです。境遇につくられるか、境遇を作っていくか。ワタクシはワタクシの総てを賭けて後者を選んだ!!」につながっていく。私も同じように生きておりますよ。青春時代に出会ったこの本のお陰でね。だからあえて「人生の教科書」と呼んでいるんだけどね。
その本が小難しい哲学書なんかである必要はちっともない。著名な学者先生が書いたものでなくてもいい。私の心の琴線を振るわせることができて、そして私がそういう生き方をしてみようと思った瞬間から、この本は私の教科書になった。ランク付けで判断する社員を諭した心そのままに、漫画だからくだらないと切って捨てるわけにはいかなかった。値打ちがあるものは、漫画であろうが哲学書であろうが、私にとっては同じである。
いやまったくこの人生、こういった本に出会えて幸せである。私もそう感じてもらえるような本を書いていきたいものだ。
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